正式な特殊清掃
夫に関しては、絶対にそれはあり得ない。
100パーセントあり得ない。
自信を持って言い切れる。
おそらく、いま風の尻上がりのしゃべりをする若いギャルに「おじ様、お可哀想!」なんて同情され、鼻の下を伸ばしてついて行くのがオチだ。
そして言うに違いない。
「やっぱり、女房と畳は新しくなくっちゃねぇ!」と。
健康なうちはそれもよい。
だがだんだん私の世界に近づくに従って、しみじみと感じるはずだ。
「やっぱり、女房と畳は古いほうが安らげる」。
そして後追いなどしなくても、いずれ寿命が来て私のところへ来ざるを得なくなる。
どんな顔をして現れるか、それが楽しみだ。
その時こそ「この新参者が……」といびってやろうと、いまから手ぐすね引いて待っている。
あの世が暗黒の世界なんてとんでもない。
何とも楽しい世界ではないか。
末っ子で両親をはじめ兄弟からも見下され、常に下から上を見上げ続けて生きてきた私にとって、初めて下界を見下ろせるチャンスに恵まれるのだ。
人の暮らしや心が見通せるなんてワクワクする。
映画やテレビドラマのセツトのように、屋根を取り払った状態だ。
どこの家の、誰の心に飛んで行こうかな?やっぱり息子のことが気にかかる。
遣された者の健康状態が悪化し亡くなるケースも少なくないそうだ。
潰傷性腸炎が多いとされているが、息子もお腹があまり丈夫でないから心配だ。
精神的にもいろいろな症状が考えられる。
無感覚、置き換え(亡くなった人が別の形で生きていると考える)、これは私も経験した。
母が亡くなったのが、昭和59年。
息子が生まれたのが、昭和62年。
どうしても息子が母の生まれ変わりのような錯覚を起こしてしまうのだ。
犬の目に置き換えたりしたこともあった。
愛する人を失うということは遣された者にそれだけのダメージを与えるということになる。
息子は果たして乗り越えられるだろうか。
唯一の救いは、息子が学校で宗教教育を受けているという点だ。
キリスト教は、親子の関係が血縁でなく、神と自分との関係だから、あるいは私との関係も自分の生きる過程でたまたま縁のあった人くらいに思ってくれるかもしれない。
夫不在で何事も母子2人で乗り越えてきた経験を生かし、新たに自分の道を切り開いていってほしいと切に願う。
そしていつの日か、伴侶と子どもに恵まれ、よい家庭を築いてくれることを望んでいる。
邪魔しないから。
夫ではない。
犬のベンのほうだ。
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